自分の部屋の中に黄泉を押し込んで、彼女は慌てて後ろ手で扉を閉めた。
安心したのか、彼女の口から大きく溜め息が漏れる。
かと思えばモモカ…いや、ティアは目の前の人物をキッと睨み上げた。



「あんた、どうしてここにいるのよ!!……って、そんなことはどうでもいいわね。なんでヘビスを殺そうとしたの!?」



声を荒げ、眉間にしわを寄せるティアとは対照的に静かな声と無表情で黄泉は答えた。



「二の腕に蛇のタトゥーがある、ヘビスという男を殺せと我が主に命令されたからだ」



ドン、と大きな音が部屋に響き渡った。ティアが拳を壁に打ちつけたのだ。
黄泉の無駄のない答えを聞いても、ティアは納得できなかったようだった。



「ヘビスを殺す理由がどこにあるっていうのよ……あいつ、何かやったの?」



ティアはそれなら納得できる、という表情を浮かべた。
誰かに恨みを買われるようなことをして、その誰かが暗殺組織に
ヘビスを殺してくれと金を払って依頼をしたのならば確実にヘビスは狙われるだろう。



「さあな。理由は聞いていない」

「なによそれ!毎回理由を聞いてたんじゃなかったの!?なんで今回に限って!」



ティアが異常なほど焦る様子に黄泉は違和感を覚えた。
黄泉はティアという人間をよく知っているのだ。おそらく、あの父親よりも。
彼女がこれほど焦ることは少ないのか、黄泉は前置きもなくぽつりと言葉を漏らした。



「そんなにあの男が大事か?」



その言葉に、彼女の引き締まった唇は白くなってかすかに震えた。
同時に黄泉が彼女を見下ろすように、彼女も真っ直ぐに黄泉を睨んでいた。



「大事じゃないわ。でもアイツが死んだら困るのよ。…一応、仲間でもあるしね」

「…わけがわからないな」



ティアは横に首を振った。



「あたしもわかんない。別に特別好きってわけじゃないし、かといって嫌いでもないの。
ただ同じ船で働いてる仲間ってだけ。でも…なんでかしらね。あいつが死んだら困るのよ」

「…そうか」



ティアの様子を悟って決心がついたのか、黄泉はすっきりとした表情で口を開いた。



「では、あいつを殺すのはやめにしよう」

「…へ?」

「聞こえなかったか?ヘビスは殺さないと言ったんだ」

「なんで…命令は絶対でしょ!?」

「…ドレットはもはや私の主ではない」



それを聞いてモモカはますます目を見開いた。
口をパクパクと金魚のように開閉してパニックに陥りながらも絞り出した言葉はあまりにも端的で、あっけないモノだった。



「どうい、う…こと?」

「ドレットは私の力が恐ろしくなり、刺客を出した。
もしそいつらが私に殺されてもヘビスを殺せば呪いは私にうつってくる。…二重の策というわけだ」

「…それじゃヘビスは…あんたを陥れるために殺されそうになってたっていうの!?」



再びティアは叫んだ。黄泉はぴくりともせず、黒い瞳で全てを語っているようだった。
彼女は黄泉の横をすり抜けて机の一段目の引き出しの鍵を開け、水鏡を取り出した。
黄泉は静かに机の上に置かれた水鏡を見つめた。

水鏡の平面の部分には太陽を模したシンボルが刻まれており、太陽本体の丸い部分は
段差がついていて、そこに水をたたえるということを表していた。
だがしばらく水は注がれていないのかそこは乾燥している。
さらにティアは引き出しの奥から水の入った瓶を取り出した。ほんの手の平サイズだ。
小気味良い音をたててコルクは引き出され、水は注がれるべきところへ注がれた。

やがてすべての波紋が消えた時、水鏡に一人の老婆が映しだされた。
おとぎ話の魔法使いが着ているような、真っ黒なローブから見え隠れする充血した目に
よぼよぼの皺だらけの顔と手と、黒い線は一本も見あたらない真っ白なボサボサの髪。
老婆は視線に気付いたようで、ゆっくりと顔を上げた。



「おやティア。何年ぶり…かはわからんが、すっかりと女らしくなりましたねぇ。
見違えるようだ。あんたはほんとにアタシの若いころにそっくりですよ」

「ありがと。あんたはちっとも変わんないわねローズ」



ローズの社交辞令をさらりと受け流し、彼女はできるだけ早く口を動かそうとしていた。



「ドレットを出してちょうだい。いるんでしょ?」

「はいはい、あの方ならいつもここにいますよ。ちょっと待ってなさいな」



ローズがそう言った途端、ゆらりと水面が揺れた。
やがて波紋は消え、今度は天井から垂れた布に浮き彫りになっている人影がそこにいた。



「ドレット、言いたいことがあるんだけど」

「…ティアか」



水鏡に映るこちらの姿が見えないのだろう。声でドレットは判断していた。
細い眉をつり上げ、思い切りティアは机を叩いた。



「単刀直入に言うわ。黄泉を陥れるのにはあたしは別に賛成も反対もしない。
でもね、ソレにあたしの仲間を……ヘビスを使わないでくれる!?」

「黄泉が殺さないと決めても無駄だ。死ぬまで私の命令は絶対だろう?
たとえ私が黄泉を始末しろと他の奴等に命令しようと、な。
私は命令を取り消さないつもりだし、命令に逆らえば――――」

「なによそれ…そんなのおかしいわよ!一生死ぬまであんたの命令に従って、
しかも用済みと判断されて他の奴等に命を狙われたとしてもそれが有効だなんて!!」

「…まったく、我が思想が理解できない者がまだ近くにいたとは、な…」



ドレットの声に微かに怒りの色が見え隠れしているのを黄泉は聞き逃さなかった。


やばいかもしれない、と黄泉は胸中でつぶやいた。


ドレットの逆鱗に触れて無事だった者は一人もいない。
このまま彼女がドレットと討論を繰り返せば、最悪の場合――――



「…どうしてもあの男を殺すのが納得できないというのなら、」



つぶやくようにドレットが言葉を紡いだのに黄泉は眉を寄せた。何かあるな、と。
ティアは身を乗り出し、急かすように布の向こうのドレットを睨んだ。
その視線に気付いたか、ドレットは口元を歪め再び言葉を紡ぐ。



「私と契約を結べ。そうすれば命令は取り消してやる」

「…!?冗っ談じゃないわ!」



再びティアは机を思い切り叩いた。机に小さな亀裂が走ったが気にせず続ける。



「なんでそんなこと!あんたの命令には死ぬまで絶対従わなきゃいけないうえに、用済みとなれば殺されるじゃない!
それにあんたは黄泉を始末しようとしてるでしょ?
契約を結んだとたん黄泉を殺せなんて命令されたらたまったもんじゃないわよ!!」

「安心しろ、黄泉を始末しろなどという命令はお前には下さないさ」



疑いの眼でティアは水鏡を睨んだ。だがドレットの影はぴくりとも動かない。
そんな状態が数分続き――沈黙を破ったのは彼女だった。



「…わかったわ。あんたと契約を結んでやろうじゃないの。
でも、絶対様づけでなんか呼んでやらないからね!」

「よかろう。…黄泉、命令は取り消してやろう。もうあの男を殺す必要はないぞ」



ドレットの言葉に頷きつつも、黄泉はうすうす感づき始めていた。
黄泉の知っている限り、ドレットはよほど信頼しているか強大な力を持っている人物ではなければ自分の配下に置いたりはしない。

他の理由があるならば――――利用するためだろう。

そして、今回のティアのことがそれに該当する。
…つまり、ドレットはティアを利用しようとしている。
それも何か――何かとは判らないが、ひどく大きな計画のために。

気づけば当の二人はすでに契約を終え、水鏡はその役目を終えようとしていた。
水の波紋が完全に消え元の輝きを取り戻した時、黄泉は訝しげに口を開いた。



「…何故奴と契約を結んだ?」

「言ったでしょ。ヘビスを殺されちゃ困る、って」

「そうではない、利用されることはわかっているはず。
お前も知っているだろう。奴は冷酷で、利用できる物はすべて利用する悪魔のような奴だ。
そもそもこの世の者ともわからん。命の保証はできないのだぞ?」

「もちろん、んなことハナッから予想してるわよ」



水を瓶の中に注ぎ戻しながらティアはそう言う。その作業は実に一滴の無駄もない。
水鏡を元あった場所に戻し、引き出しの鍵を閉める。鍵は服の二重ポケットの中にそっと大切そうにしまわれた。



「おとなしく利用されてやろうじゃない。…その代償は高くつくけどね」

「…どういうことだ?」

「幹部や参謀…とまではいかないけど、少しでも上の地位にのし上がるの。
あたしがあいつの計画になくてはならない存在になり、重大な任務を任されたその時…」























ゆっくりと、ティアは後ろを振り返る。























まるで、良い悪戯をひらめいた子供のような表情を浮かべて























「あいつを、裏切ってやるわ」























血のように紅き瞳を、らんらんと輝かせながら。






















































カミノウタ



第四話

−黄泉−





























































「まったく、最近流血沙汰増えてませんか?」



若き船医はため息をつきながら、乱暴ながらも的確に傷口を消毒しはじめた。
その消毒液が傷口に染みたのか、ヘビスが悲鳴と抗議の声を上げたが
やかましいとばかりに彼はヘビスの頭を軽く殴った。



「クラウドといいヘビスといい、少しは自分の身体を大切にしたらどうです?
一口に手当っていっても大変なんですからね。それにそこの…ルゥさんでしたね。
回復魔法を唱えるのも大変でしょう。魔法は精神力を浪費すると聞きますよ」

「あ、いえ別に平気ですよ。初級魔法だったらそんなに精神力は浪費しませんし…」

「それだったらいいですが…」



ヘビスの身体にぐるぐると包帯を巻き終えると、今度はペンを手にとってカルテを書き始めた。
迷うこともなくスラスラとペンを走らせる。



「ヘビス、しばらくは絶対安静ですよ。傷口は深くなかったからいいものの、
そのぶん出血はひどかったんですからね。三日は部屋の中でじっとしててください。
…あなたなら、六日ほどで全治するでしょうけど」

「じゃあ、その間仕事は…」

「休みに決まってるでしょう?私から船長に言っておきますよ」



ヘビスは船医…ティルに手伝ってもらいながら、真っ白な衣服に袖を通した。
船員用の衣服は真っ赤になってしまったため、あらかじめ用意してあった彼の私服に着替えることになったのだ。
蛇の刺青を隠すためのこれまた白いバンドを腕に通すと、ヘビスはどうしたものかと顎に手をあてて考える仕草をとってみせた。



「……なぁ、黄泉って奴どうすんやろな?あいつ、主に裏切られたから
どこにも居場所がないんやろ?まさかここの船員になるってことは……」

「船長はそのつもりみたいですよ」

「なにぃっ!?」



ヘビスは驚きのあまり、弾かれたように立ち上がった。椅子が音を立てて倒れる。



「じょ…冗談じゃあらへん!!あんな危険な奴と同じ職場で働けるかいな!!」

「まぁ、あなたは黄泉さんに命を奪われかけましたしね。
そう思うのは至極当然です。でも船長の目が確かなことはあなたも知ってるでしょう?」



ティルがドレットヘアーをうざったそうに払ってそう言うと、ヘビスはうぅ、と唸ってそのまま黙り込んでしまった。

的を得ていたからである。

彼の買い物上手と体力を見込んで買い出し係に任命したのも、クラウドを戦闘要員(普段は雑用だが)として雇ったのも他の誰でもない船長だ。
おそらく今回も、黄泉の中に光る何かを見つけてそういう考えに至ったのだろう。
だがやはり抵抗はある。ティルの言う通りヘビスは殺されかけたのだから。



「じゃあ少しでもわいから離してもらわな。主に裏切られたから命令は無効になるんやろうけど、それでも危険なことには変わらんからな!」

「だけどヘビス、あなたモモカにいつも殺されかけてるでしょうに」

「それとこれとは話しが別やねん。あれはモモカがわいに与えた愛の試練…!
だからわいはいつも不死鳥の如く蘇ることができるんや!
だけど今回はどうや?呪いをかけた張本人がわいを殺そうとしたんやで!?
しかもそれが自分の手下を殺すため…。ドレットの奴、人をなんだと思ってやがる!」

「あ、今普通の言葉になったな」

「わいだって普通に喋れるねん!方言ばっかりだと思ったら大間違いやで!」



クラウドの言葉にヘビスはビシィッとツッコミを入れる。
だが無理な動きをしたためか、いててと包帯越しに傷を押さえてうずくまる。
その様子を見てティルは溜め息をついた。



「ともかく、必ずとは言えませんが黄泉さんはここの船員になるでしょう。
もしかしたらヘビスが療養している間、代理の買い出し係になるかもしれません。
まぁそこらへんはまだわかりませんが……あ、ヘビスの要望は船長に伝えておきますね」



一気にそう言うと、ティルはにっこりと微笑んだ。
つられるようにしてヘビスも笑みを浮かべる。…まだ痛むのか、ひきつってはいたが。



「クラウド、悪いのですがヘビスを部屋に連れていってくださいませんか?
手当てしたばかりで、一人で歩くのは少し困難でしょうから」

「ああ、わかった。行くぞヘビス」

「おう…」



クラウドに肩を貸してもらいながら、ヘビスは歩き出した。足下が少し頼りない。



「…あ、そういえば…アリヤはどうや?」



思い出したようにヘビスが尋ねる。アリヤも黄泉に腹部を強く殴られていたのだった。



「大丈夫ですよ。骨に異常はないようですし、内臓にもまったく異常はありません。ただ…」

「ただ…なんだ?」

「なんだか…ショックを受けてるみたい」



ルゥの言葉にクラウドが眉を寄せた。ヘビスも少し不安げな表情を見せる。



「黄泉さん…に殴られたってことと、ヘビスを殺そうとしたこと。
あの人がそんなことをするなんて思ってなかったみたいで、かなりへこんでるみたい」

「…あの風貌でわかりそうなもんだが…」



クラウドが深いため息をついた。恋は盲目といっても、あれはあまりにもひどすぎる。
顔半分を覆う黒いマスクに黒い着衣。おまけに黒に変色途中の銀髪。
どこをとっても怪しすぎる。どうやら顔立ちは綺麗に整っているらしいが、そんなのはクラウドにとってはどうでもいいことだった。
命令だったとはいえ、黄泉は人を殺そうとしたのだから。
アリヤもとんだ奴に惚れたもんだと胸中でつぶやきながら、クラウドはヘビスを再び促し医務室を後にした。
…彼いわく、自分も得体の知れない"何か"に惚れているらしいが。





















































なんてことだろう。


この人こそ運命の人だと思ったのに…。
確かにめちゃくちゃ強かったし、あいつらも結構危険な奴らだったけど…てっきり俺はヘビスの昔なじみなのかと!
そりゃ始末とかなんとか言ってたけど、それも何か別の意味かと信じてたのに…!
まさか人を殺す職業を営んでるなんて思いもしなかった。
あぁ、くそっ…なんてこった。




アリヤは腹に手を当てた。まだ痛むのだ。
耐えられないほどではないが…それ以上に、精神へのダメージは強かったようだ。

と、静寂が流れている部屋にノックの音が響く。
アリヤが返事を返すと、ゆっくりとドアが開いた。
そこには黒いバンダナを額に巻いた少年の姿。



「あぁ、クラウドか…どうしたんだ?」

「ちょっと聞きたいことがあってな」



アリヤは首をかしげた。まさか今更仕事についての質問ではあるまい。
クラウドがこの仕事に就いてからすでに一ヶ月近く経つ。
物覚えが早く手先の器用な彼が、どちらかというと不器用に入るアリヤに仕事についての質問をするとは思えない。



では、質問とは何か?



「クラウドが俺に質問なんて珍しいな…。まぁ立ち話もアレだし、入れよ」

「ああ…ふたつくらいあるんだけど、いいか?」



適当にコーヒーを入れながら、「おう」とアリヤが言葉を返す。椅子に座るクラウドに続く形で
アリヤも座り、向かい合う形になったところでクラウドは再び口を開いた。



「まず、ひとつ。あの黄泉って奴のどこに惚れたんだ?」

「え?!そりゃーお前っ!あの美貌と強さに決まってんだろー!?あと、ミステリアスなところとかも素敵だ!!」

「ミステリアス、なぁ…」



クラウドは苦笑いを浮かべた。
なんていうかあれは、暗殺者特有の暗さにしか取れないのだが。
それをミステリアスと取るなんていかにもアリヤらしい。



「ふ、黄泉の溢れんばかりの魅力を理解できないなんてお前もまだまだ子供だなっ。
あれは俺のような大人だけが理解できる魅力なのさ。まぁクラウドやヘビスにはまだ早すぎるか」

「あ、そう……よーっくわかった。次の質問、いくぞ」

「おう。…って、なんかはぐらかしてねぇかお前?」

「気にするな」



アリヤのツッコミを軽く受け流して、コーヒーを一口。



「アリヤ、俺にこう言ったよな。"お前だって十分得体の知れないヤツに惚れてるんだぞ"って」

「ああ、そういや言ったなぁ。それがどうかしたか?」

「その"得体の知れないヤツ"って誰だ?」

「げほッ!?」



急にアリヤがむせた。そんなに驚くことかとクラウドは目を瞬いた。
アリヤは咳き込みながらも彼に何か言おうとしているが、コーヒーがもろに気管に入ったのかうまく喋れない。
見かねた彼が背中をさすってやると、少し咳がおさまってきた。



「そんなに驚くことだったか?」

「い、いや…お前、マジで気づいてねえのかよ?」



まだ咳き込みながらアリヤが逆に尋ねる。少し涙目になっている。
「何にだ?」とばかりにクラウドは小首をかしげた。するとアリヤが呆れた。



「お前、意外に自分の気持ちには鈍感なんだな…」

「だから、なんだっていうんだよ」

「じゃあ言うけどよ…」



珍しく、アリヤはため息をついた。クラウドが怪訝な表情を浮かべる。



「お前、ルゥに惚れてるんだろ?っつーかぶっちゃけ、二人ともデキてんだろ」

「…は?」



クラウドが戸惑いの表情を見せた。わけがわからない、といった風である。



「お前らいつも一緒にメシ食ってるし、魔物がでた時なんて思いっきり姫とそれを守る騎士じゃねぇか。
いや、ルゥも戦ってるけどよ…。とにかくデキてるようにしか見えねぇぜ?」

「あのな…変なこと言わないでくれ。デキてるわけないだろ」

「じゃあなんでいつも一緒にメシ食ってんだ?なんでお前はルゥを守るように戦うんだ?説明してみろよ」

「それは、なんていうか…」



まさか五年前に二人の間にあったことを赤の他人のアリヤに話せるわけがないだろう。
そもそもクラウドはアリヤたちのことをまだ信用していないのだ。
とりあえず、苦し紛れの言い訳を放つ。



「あー…ほら、ルゥはモモカみたいに逞しくないし…守ってやらないと海に落ちそうだし…」

「まぁ、確かになぁ…じゃあ、なんでいつも一緒にメシ食ってんだ?」

「それは…えーっと…」



今度こそ、クラウドは言葉を詰まらせた。言い訳のしようがないのだ。
やはり五年前のことを大幅に省き、説明しなければならないだろう。
そうでもしなければこの苦境は乗り切れない。彼はため息をついた。



「…あいつとは七年前に知り合って、二年のつきあいなんだよ。
だけど五年前に俺が旅に出て…この船で働き始めたら偶然あいつに再会したんだ。
それで、ただ五年間のブランクを取り戻してるだけなんだよ。だからデキてなんかいない。
わかったか?わかったよな!?」

「わ、わかった。わかったけど…なんで剣抜こうとしてんだよ!?」



なんとなく場の雰囲気に合わせて、アリヤは両手をあげている。
クラウドの手が剣の柄に添えられていたからだ。
アリヤが理解したことを確認すると、クラウドはようやく剣の柄から手を離した。



「まぁ…とにかくそういうことだ。変な勘違いするなよ。…それじゃ、邪魔したな」

「なんだ、用はそれだけだったのかよ」

「ああ」



クラウドは一気にコーヒーを飲むと、椅子から腰を上げた。
そのままドアに直行したが、ノブを握ったその時にふと思い出したかのように振り返った。



「言い忘れてたけど…ティルが言うには、黄泉はここの船員になるらしいぞ」



急な知らせにアリヤは唖然とした。だがクラウドによると、部屋を出てドアを閉めようとした時、かすかに歓喜の声が聞こえたという。





















































「おう、そこのあんた」



モモカの部屋から出たところを呼び止められて、止まった。
振り返ると中年の男がそこにいた。妙なことが殴り書きしてある帽子をかぶっている。



(船長の…ハザードとかいう男か)



「黄泉、つったっけな。聞いた話によると、あんた自分のカシラに裏切られたんだって?」

「…それがどうした」

「帰るとこ、ねえんだろう」



船長は腰に両手を当てた。こういう仕草はモモカそっくりである。
そんなことを頭の片隅で思いながら、黄泉は小さく頷いた。



「んじゃ、しばらくこの船で働かねえか?」

「何…?」

「あぁ、もちろんタダ働きとは言わねえぜ?ちゃんと給料だって払うしよ、無理な仕事はさせねえ。どだ?」

「そんなことは聞いていない。なぜ私がお前の船で働かなければならない。
私は主の命令とはいえ、お前の下で働いている船員を殺そうとしたんだぞ」



黄泉は鋭く問うた。眼光もだいぶ鋭いため、さすがの船長も少したじろいだが負けじとこう言う。



「オレ様としちゃ、帰るとこねえ奴をこのまま行かせるわけにゃぁいかねえんだよ。
あんたを行かせたら、アリヤに一生恨まれちまうだろうしな。
それにあんたのそのチカラ。海の魔物退治にはピッタリだ。…どだ?お互いにとって悪い話じゃねえと思うぜ?」



黄泉は、すっかり元通りになった黒髪をうざったそうに払った。
確かに自分には帰るあても、どこかに行くあてもない。
船長の話はありがたいものだった。完全に信用したわけではないが――――モモカの父が船長の船ならば、大丈夫だろう。
彼女は信頼できる唯一の友だ。



「…いいだろう。ただし、私が寝起きする部屋には鍵をつけてもらうぞ。いいな?」

「おぉ、構わねえぞ。こっちとしても、貴重な戦力が加わるのはありがてえことだしな」



人形のように無表情な黄泉に対し、船長は海の男らしい笑顔を浮かべた。





















































その四日後のことである。



「黄泉、これからどんどんどんどんどんどんどんどん仲良くなろうな!」

「断じて断る」

「もう、照れちゃって!君のその美貌にオレの胸は張り裂けそうだぜ!」

「そのまま死んでしまえ」

「ああ、君と一緒の船で働けるなんてオレは世界一の幸せ者だ!」

「私は自分の運命を呪いたいくらい不幸だ」



「…アリヤさん、すごい…」

「言葉が通じるだけ、まだヘビスの方がマシだわね」



アリヤは黄泉に猛アタックを仕掛けていた。
よほど一緒の船で働けることになったのが嬉しいのだろう。
あれから黄泉は主の命令とはいえ怪我を負わせたことをヘビスに詫び、他の船員とも問題無くやっていた。
ただひとつ問題があるとすれば、朝起きてくるのが遅いということくらいか。
しかし…どうにもアリヤだけには素っ気なく、冷たい。
どうやら必要以上にベタベタとしてくるのが気にくわないらしい。
だがアリヤはそれを照れ隠しと受け取り、毎日毎日仕事の合間を縫っては黄泉にくっついているのだった。



「貴様、いつまでひっついているつもりだ。だいたい仕事はどうした」

「何言ってるんだよ黄泉!」



アリヤが黄泉の前に回り込んだ。



「オレたちは運命の赤い糸で結ばれているんだ…離れられるはずないだろ?」



胸の前でぎゅっと黄泉の両手を握り、きらきらとした目で彼女の漆黒の瞳を見つめる。
黄泉がうんざりしたような表情を浮かべた。同時に怒っているようにも見える。



「オレは君と初めて会った時、ビビッときたんだ。この人こそ運命の人だってな。
素っ気ないそぶりをしているけど、君だってオレと同じように――――」

「うるさい。お前、また腹を殴られたいのか」

「照れ隠しなんていらないさ。さあ、早くオレの胸に飛び込んで――――あれ?」



アリヤはいつの間にか、床に仰向けになって倒れていた。なぜか背中のあたりがじんじんと痛む。
ふと上を見ると、前に屈んでいる黄泉の姿がある。そこでようやく、アリヤは黄泉に背負い投げされたことを理解した。



「阿呆が」



黄泉はそれだけ吐き捨てると踵を返し、すたすたと去っていった。慌ててルゥが駆け寄る。



「アリヤさん…大丈夫ですか?」

「あ…ああ。背中がちっと痛むけどな…」

「あんた、よっぽど嫌われてんのね…。まさか背負い投げされるとは思わなかったわよ」



モモカも近くに来て、呆れるようにそう言った。
だがアリヤは立ち上がり、ぱんぱんと埃を払うとまったく見当違いのことを言ってくれた。



「しっかし、黄泉もずいぶんと照れ屋さんだな。遠慮しなくていいのに…」

「…え?ア、アリヤさん…?」

「あんたねぇ…」



はあぁとモモカが深くため息をついて立ち上がった。



「あれだけやられて、まだ黄泉と心が通い合ってると思ってんの?」

「何言ってんだ、当然だろ?黄泉だってああは言ってるけど、オレのことが愛しくて愛しくてたまらないはずだ!」

「そ…そう…」

「…モモカ、今のアリヤさんは何言っても無駄だと思う…。もう三時だし、そろそろ夕食の準備しよう?」

「…そうね…」



アリヤの前向きすぎる考えと見事な勘違いっぷりにモモカは再びため息をつき、
「ちゃんと仕事にしなさいよ」とアリヤに言い残すとルゥと一緒に食堂へと消えていった。
残されたアリヤは、ポケットから煙草を取り出し火をつけて口に軽くくわえる。
すぐに吐き出された白い煙は、少しの間空中を舞うとやがて消えていく。






それと同時に、一言。






「…んなこたぁ、わかってんだよ」















――――モモカに注意されたことについての愚痴か、それとも。





















































「…ねぇ、ルゥ」

「うん?」

「あと、一日よね…ティムライトに着くのって」

「…うん」



モモカの言葉にルゥがうつむく。野菜を切っていた手も止まった。
それを見たモモカは慌ててフォローを入れる。



「大丈夫よ!噂なんてガセのことが多いし、まさか王が直々に宣言したことを破るわけないでしょ?
きっとどっかの誰かがホラ吹いたのが、そのまま尾ひれがついて回っちゃったのよ!」

「…ありがとう。そうだと、いいな…」

「モモカー、不安にさせるようなこと言っちゃだめだろ?ルゥはお前と違って繊細なんだからよ!」

「なんですってぇ!?誰が図太いってのよ!」



魚をさばいていた男の言葉にモモカが思わず振り返った。
「別に図太いとは言ってないだろ」と男はいたずらっぽく笑うが、モモカの怒りはおさまらず。
包丁を振りかざして襲いかかっていきそうだったが、さすがにそれはせず少し(彼女にとってだが)強く一発殴る程度にしておいた。
それもいつもの光景なのでルゥは気にしなかった。いや、気にする余裕がなかったといえよう。



(あと、あと一日で…すべてがわかる…)



ぐっ、と包丁を握る手に力が入る。
モモカはああ言ってくれたものの、それでも不安には違いないのだ。
だがそれを表に出せばまわりを心配させてしまう。余計な心遣いをさせたくはない。
無い余裕を練って無理矢理笑顔を浮かべ、まわりを安心させようとしているのだった。
しかし、それはかえって逆効果だということになっていることに彼女は気づいていない。
無理矢理作った笑顔は不自然でしかない。余裕がないことくらい容易に察することができてしまう。
なんとなく他の船員たちはあの噂を耳にしてからいつもよりもウンディーネに多く話しかけるようになっていた。
ただ、鈍感な彼女はまったく気づいていないようだが。



「ルゥ、ルーゥ!」



はっとして横を見ると、モモカがルゥの顔をのぞき込んでいた。
どうかしたの?と尋ねられたがルゥは横に首を振る。
するとこれ以上の詮索はしない方がいいと判断したのか、モモカはあっさりと引き下がった。
ルゥは再び野菜を切り始め、片っ端から鍋に放り込んでいく。
――――料理に集中しようとしても、あのやりとりが頭から離れない。



















(お前さんの故郷のティムライト王国。そこに今、ガダイ帝国が進軍しているらしい)


(そんな…ガダイ帝国は軍を捨てたんでしょう!?
それから各国との協和を結んで、隣国のルダイ共和国と友好同盟を結ぶって…!)


(まぁ噂の真偽はわからん。だが、心の準備はするに越したことはねぇと思うぞ。
ガダイ帝国は代々あくどいことを重ねてきてる。約束破んのだって驚くことじゃねえ。…今回はちと、度が過ぎるようだがな)



















ぐら、と視界が揺れる。包丁が手から滑り落ちて、金属音をたてた。



「ルゥ…大丈夫か?なんだか顔色が…」

「だいじょぶ、平気…」

「無理すんじゃないわよ。ほら、とっとと自分の部屋で休んできなさい」

「で、でも…ごはん、作らなきゃ…」

「馬鹿!無理して体壊したらなんにもなんないでしょ?ここはあたしらにまかしといて!」



モモカも他の船員も引き下がるつもりはない。ルゥには自分の部屋で休むしか道は残されていないようだ。
しかたなくルゥは納得し、モモカに連れられて自分の部屋のベッドで横たわっていた。



「いーい?体調よくなるまで休んでるのよ。あとでごはん運んでくるからね!」



とんとんと物事を進め、はきはきとルゥに忠告していくとモモカはそのまま食堂に戻っていった。
ふぅ、とルゥの口からため息が漏れる。
まさかあんなことで――――そう表現できるほど小さな問題ではないが――――気分が悪くなるとは思わなかった。



ごろり、と寝返りを打つ。



自分一人だけ仕事を休んでいるわけにはいかない。早く体調を元通りにしなければ。

――――回復魔法は、傷を治癒してくれても体の疲れまでは癒してはくれない。
ましてや一時的に悪くなった体調など論外である。



彼女はまたひとつ、ため息を漏らした。 





















































夕食時。



すっかりこってしまった肩を自分で揉みながら、クラウドは適当に席に着いた。
普段、この時間はだいたいの船員が食べ終わり食事係にあたっている船員たちなどが食事をとっている。
クラウドはいつもルゥと食事を一緒にとるため、いつものようにこの時間に食堂に赴いたのだが…。



(…いない?)



きょろきょろとあたりを見回すも、ルゥの姿は見当たらない。
まだ厨房にいるのかとのぞきこんでみるがやはり見当たらない。
と、ちょうどモモカがそこにいたのでクラウドは尋ねてみた。



「モモカ、ルゥはどうしたんだ?」

「ルゥならなんだか具合が悪そうだったから自室で休ませてるわよ。
原因はよくわかんないけど、たぶん…極度の緊張のせいかしらね」

「…そうか」



明日にはティムライト王国に着いている。ということは、噂の真偽が明らかになる。
この四日間、ルゥは気が気でなかっただろう。もしかしたら自分の生まれ育った国が帝国の手に落ちているかもしれないのだ。
無駄かもしれないが、元気づけに行ってみても罰は当たらないだろう。

クラウドは夕食を食べ終わると、食器を厨房に下げるついでに再びモモカに尋ねた。
手には今日の夕食がトレイの上にのっている。



「あいつ、夕食はどうするんだ?」

「一応これから持ってくつもり。食べられるかどうかわかんないけど」

「そうか…。それ、俺が持っていってもいいか?」

「ん、いいわよ。ハイ」



モモカはクラウドにトレイを手渡した。やけにあっさり納得する彼女になんとなく不審を覚えながらもクラウドは礼を言う。
と、食堂を去ろうとするとモモカが突然思い出したようにクラウドを引き留めた。
疑問符を顔に貼り付けたクラウドに、モモカは冗談交じりに一言告げた。



「ルゥにヘンなことするんじゃないわよ」

「馬鹿言うな」



驚くことも焦ることもなくぴしゃりとクラウドは言い放つと、すたすたと食堂を出て行ってしまった。
モモカは拍子抜けしたように、腰に当てていた手をすべらせた。



「ったく、何よ。からかってやろうと思ったのに。ちょっとはノッてくれたっていいじゃないの」



モモカは面白くなさそうにため息をつくと、食事の後片づけをしようと踵を返すのだった。





















































…ふぅ。



これで、5回目のため息。



翌朝のこと。ルゥは髪の寝癖をとりながら、何度も何度もため息をついていた。
決してなかなか寝癖がとれないからではない。いや、それも多少含まれているかもしれないが。
昨夜、クラウドがわざわざ運んできてくれた夕食もほとんど食べることはできなかった。
まだ少し胸に具合の良くないものが残っている。乗り物酔いがいつまでも残っている感じだ。





――――ついに、今日という日を迎えてしまった。





窓から外を覗いてみれば、もうすでに大陸の砂浜は見えている。
あと数分で王国に着いてしまうのだ。
ちなみに彼女が目覚めた時、朝食の時間はとっくに終わっていた。
大慌てで食堂に向かい、まだ後片づけをしていた厨房にいたみんなに寝坊したことを謝罪し
同時に後片づけはすべて自分一人がやると申し出たところ、病み上がりの者に
仕事をさせるわけにはいかないとその申し出はあっさりと突き返されてしまった。




またひとつ、ため息をつく。




王国へ行くことは自分で決めた。そう、彼女自身の意志である。
けれど不安だということには違いない。原因が真偽のわからない噂だとしてもである。
ただの噂だとモモカのように笑い飛ばすことはできなかった。
ようやく寝癖がとれた時と同じくして、外の流れる景色が止まった。今はただ上下に揺れているだけである。



(…着いちゃったんだ)







覚悟を、決めなければ。







ルゥは立ち上がり、部屋のドアノブにそっと手をかけた。





















































「ルゥ、覚悟はいいか?」



アリヤが後ろにいるルゥに尋ねた。



「…はい」



少々間があったもののルゥはしっかりとした声で返事を返し、頷いた。
うっし、とアリヤが気合いを入れる。



「んじゃ、行くぜ」



彼の言葉を合図に、彼らは歩き始めた。



王国に向かうのは、ルゥ、クラウド、ヘビス、モモカ、アリヤの五人である。
様子を見てくるだけだからついていくのは二人ほどでいいという船長の意見が反映されるはずだったのだが――――
まず、ルゥの護衛ということでクラウド。それだけでは心配だということでアリヤとモモカ。
するとモモカが行くのならと治りかけの傷をひきずってヘビスがついてきたのである。



「さて…この街道を抜ければいいのか?」

「はい。まっすぐ道なりに進めば王国に着くはずです」

「にしても、なんでわざわざ船を砂浜に停めたんや?ティムライトって、確か港あったような気がするんやけど…」

「それくらい自分の頭で考えなさいよ」



問いを投げかけたヘビスをモモカが叱りつけた。モモカはちらとルゥを見ると、ヘビスの耳に唇を近づけ囁いた。



「もし万が一ガダイが進軍してて占領されてたら、港になんか停められないでしょうが。船を取り押さえられちゃうじゃないのよ」

「あ…そ、そか…」



ヘビスから離れて、まったく、とモモカは腰に手を当てた。
もし―――そうあってほしくはないが―――ガダイに進軍され、占領されていたらどうしたらよいのだろう。
ルゥにどんな言葉をかければよいのだろう。一抹の不安が胸を横切る。
と、



「なぁ、さっきから気になってたんだけどよ…。この大量にある足跡はなんだ?」



アリヤが地面を見て、問いかけた。
彼と同じく地面を見てみると、確かに数十―――いや、数千はあろうかという足跡。
王国へと進む方向の足跡もあれば、まったく逆方向の足跡もある。



「…これ、って…もしかして…」



歩きながら、ルゥが不安そうにつぶやく。
――――誰も口を開こうとはしなかったが、しばらくしてからヘビスが口を開いた。



「き、きっとサーカスでも通ったんやないか?ほら、サーカスって大所帯やんか。
往復した後があるんも…その…芸が終わって帰ったからかもしれんし…」

「…ありがとう。気休めでも、嬉しいよ」



うつむいてルゥが言う。ヘビスは元気よく返事をしたが、やはり気休め程度にしかならなかったかと内心悔やんでいたようだった。
それから重い空気を漂わせながら、五人はひたすら街道を進んだ。
足が痛くなってきた頃、ようやく城下町の正門前へと辿り着いた。ごくん、とルゥの喉が鳴る。
門は、傷だらけだった。



門の向こうからは物音ひとつ聞こえない。時折、何かパチパチと乾いた音がするのみである。
やはり、という思いをルゥは胸に宿した。
ティムライト王国城下町はいつも活気に溢れている。今のような昼時は、特に。
だというのに、今は耳が痛くなるほどの静寂が流れている。
パチパチという乾いた音と―――何かが焦げたような、嫌な臭い。

間違いなく、これは――――



「…開いてる、みたいだな」



アリヤが手に力を込めて押すと、正門は前に微かに揺れた。そのまま開くことはなく、前後に小さく揺れるのみだったが。
すっ、とルゥが一歩前に出た。アリヤは反射的にいた場所を彼女に譲る。
ルゥは静かに、門ではなくおよそ縦2m50cm、横1mはある質素な扉の取っ手に手をかけた。
門は15mはある。ルゥ一人の力では開くことはできないだろう。

門は大勢の人々や、何か大きな物が運ばれる時のみだけに開かれる。
そして、今ルゥが開こうとしている扉。
これは普段は門番がいて、審査を受けさせてから入国させていいかどうか判断する。
入国許可をもらえば、扉から国内に入れるのだ。

五分ほど経っただろうか。
決心したように顔を上げ、ルゥは手に力を込めた。



「…行きます」























ゆっくりと、扉が開く。























その場にいる全員が、息をのんだ。























そこには























門の、向こうには























かつて栄えていたはずの、からっぽの町の姿があった。




















































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あとがき

ういっす。第四話、終了です。
黄泉とモモカの関係、あまり明らかになってませんね。
そしてけっきょく噂は本当でした。ティムライト王国ぼろぼろです。
さて、ルゥもといウンディーネやクラウドたちはどうするんでしょうか。

ではまた次回に。