「早いね」
そう声をかけられて、ティーダは思わず振り返った。
朝霧でよく見えないが、あのシルエットと声は間違いなく自分の愛しい彼女だろう。
小さな歩幅で歩いてくると、ティーダの隣にちょこんと腰を下ろす。
「なんだか目が覚めちゃってさ」
「そっか…、私もなんだ」
ユウナは不安げにうつむいた。
「…ね。ほんとに、シンを倒せるのかな…?」
「大丈夫、俺に任せとけって!」
「だってシンは…ジェクトさん、なんでしょ?」
「…うん…」
今度はティーダがうつむく番だった。
確かにシンは彼の父親、ジェクトだ。
ジェクトは昔、大召喚士ブラスカ…ユウナの父親のガードをしていたのだ。
シンを倒すためには究極召喚が必要だが、それを使えば召喚士も死んでしまう。
だがその究極召喚も――ガードの一人が犠牲にならなければならない。
そして究極召喚獣となったそのガードはエボンジュに取り憑かれ
十年ほどのナギ節の後、新たなシンとなるのだ。
「だけど親父は、スピラのたくさんの人を苦しめたんだ。
罪は償わなきゃいけない。そうだろ?」
「うん…」
「それに、親父だってシンでいることに疲れたんだ。早く楽になりたがってる…。
シンを倒すことは、親父のためでもあるんだ。だから、ユウナが気にすることないよ」
「…そっか。そうだね…」
ユウナの表情が不安から微笑みに変わってきたのを確かめて、ティーダは力強く頷いた。
ふと、脳裏によぎる。
自分は祈り子たちが見ているにすぎない―――“夢”、なのだと。
願わくばずっと彼女と、仲間たちと一緒にいたかった。
他愛もない話しをして、笑って…そうやってずっと、幸せに暮らしていきたかった。
けれど、それも叶わない。
この前までは、アルベド族の少女と究極召喚からユウナを救う方法を
一生懸命考えつこうとしていたというのに――――なんという因果か。
シンを倒しても彼女が死なない方法を見つけることはできた。
けれどそうすれば、エボンジュを倒せば祈り子たちは夢を見続けるのをやめてしまう。
今度は――ティーダが消えてしまうのだ。
「…なぁ、ユウナ」
いっそ、彼女にだけは明かしてしまおうか。
「あの…俺さ」
けれど。
そんなことをしてどうなるというのだろう?
「俺」
今明かしてしまったら
真実を話してしまったら
ユウナはきっと、素直に受け入れられない。
「キミが消えるくらいなら」とシンを倒すことをやめてしまうかもしれない。
そうしなくとも戦いに精彩を欠くことは確かなことだ。
やめた方が、いい。
「俺、頑張るから!だからユウナも頑張れ!
エボンジュ倒したら、ずーっと続くナギ節が作れるんだぞ!」
カラとも思える元気な声にユウナは一瞬目を丸くしたが、すぐに「うん!」と
嬉しそうに微笑んだ。
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