「ねぇねぇウンディーネ」
不満そうな表情で、モモカがぴょこんと顔を出した。
「ん、なに?」
「ウンディーネってさあ、クラウドのどこがいいワケ〜?」
「どこがいい、って…」
「確かにあたしも昔はカッコイイとか思ってたけどさー、よく考えたらむっちゃ冷たくて、かなりヤな奴じゃない?
んで、ウンディーネはそんな奴と恋人同士なワケっしょ?し・か・も! あんたのほうから告白したらしいじゃん!?
ねぇどしてどして? クラウドのどこがいいの?」
「あ、あのね…」
困ったような笑顔を浮かべ、なだめるように手のひらをモモカに向ける。
「確かに、クラウドはちょっと冷たいけど……でも、本当は優しいよ。
人より責任感が強くて…自分の手の届く範囲は絶対に守るっていう信条があるんだ」
「ふーん…なんか、イイ奴っぽいわねぇ」
「ただ――――」
先程までは明るかった彼女の表情が急に陰る。
「私たちにも、いろいろあって――」
忌まわしき過去が、頭の中で音を立ててフラッシュバックする。
ふっ、と寂しげな光を蒼い瞳の奥に宿したかと思うと、彼女は静かに目を伏せた。
「…ウンディーネ?」
どうしたのというようにモモカが眉を寄せた。
するとハッとしたように彼女は伏せていた瞳を開く。
「あ、ごめん…。ちょっと、ね」
曖昧な笑みを浮かべ弁解するウンディーネを見てモモカは少し安心したようだ。
そしていたずらっぽい笑みを浮かべて、
「ねえウンディーネ。今日が何の日だか知ってる?」
「え?」
「わかんない? …そうよねぇ、この頃やけに忙しかったもんねぇ!
しょうがないから教えてあげるわ! あのね…」
彼女はもったいぶるようにそう言ってから、大きく息を吸い込んだ。
「ウンディーネ!18歳のお誕生日おめでとーっ!!」
「へ!?」
あまりの突然のことにウンディーネは驚き、危うく海に落ちるところになった。
あたりを見回せば、アリヤやリォル、船員たちがこちらを見てにこにこしている。
「今日は2月7日!お前の誕生日だろ?」
「おめでとー!めでたいめでたい!」
「あ………び、びっくりしたぁ………」
「やぁっぱり忘れてたんだ。よかったわねぇあたしたちが覚えててさ!
ほらほら、ちょっと来てみてヨー!」
「え?え?」
突然誕生日を祝られ、あげくにはこっちに来いと。
彼女の頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだった。
モモカはぐいぐいと手を引っ張り、ある船室の前で立ち止まった。
「ここ、開けてみて」
「え?」
ウンディーネはもうわけがわからなかったが、「いいからいいから」とモモカに促され、そっとドアのノブに手をかけた。
パーーーーーーンッ!!
「わぁっ!?」
扉を開けた瞬間、大きい音と共にウンディーネはクラッカーから出た色とりどりの細長い紙まみれになった。
「お誕生日おっめでとぉーーーーっ!!」
「おめでとうございますー!」
「めでたいなぁ!」
「………………」
「おめでとう」
「おめでとうだぜーーーー!」
「おめでと!」
その部屋には、クラッカーを持った男女七人が立っていた。
「ミカにフェリアにヘビスに大和に黄泉さんにハザードにファーラム…みんな!」
「あははっ!驚いてる驚いてる! 作戦大成功だねっ♪」
「ウンディーネさん見てください!このケーキ、僕たちで作ったんですよ!」
フェリアが頭のうさ耳を揺らしながら、一つの箱を取り出した。
彼が箱の蓋を開けると、そこにはちょっといびつな形の真っ白なケーキがあった。
「大変だったんですよ〜。モモカさんとミカさんは自信満々で「作れる」って言ったのにすごくお下手でしたし、
黄泉さんはお料理したことないっていうし、リォルとアリヤさんは遊んでばっかりだったし、
ハザードさんはケーキに魚を入れようとしましたし、大和さんは「面倒だ」とか言ってどこかに行っちゃうし、
ヘビスさんは蛇の卵を使おうとするし、もう頼れるのはファーラムさんとクラウドさんだけだったんですから!!」
「あはは……そ、それは大変だったね…」
フェリアの背後で殺気を放ちまくっている女性二人の存在に彼女は少し後ずさった。
「そうなんですよ!なんとかできたんですけど、味はどうなってるかもう知ったこっちゃないって感じです!」
「あははははは…」
ウンディーネはもう笑うしかなかった。
あの二人は目から妖しい光をかもしだしており、今にも彼をボコボコにしそうなオーラが漂っていたからである。
(フェリア…ちょっとは世渡りを学んだ方がいいかも……)
「あ、そうだ!これ、ボクからのプレゼントだにょー♪」
「え?」
リォルが何かの包みを口から取り出した。
体の中はブラックホールだし唾液はついていないが、やはり受け取るのは少し抵抗があったりする。
「あ、ありがと…」
「うひひ♪ そんな風に言われちゃうと照れちゃうっ☆」
「…そ、それでさぁ、中身は何なの?」
「待ってね、今開けるから……」
包みのリボンを解いて、包みを開けたそこには。
「…あ…」
「ん?なになに? 何が入ってたのー?」
ミカがひょこりと覗き込む。
その瞬間、彼女は絶句してしまった。
なんとそこには、水色のワンピースがきれいにたたまれていたのである。
「リォル……これは……?」
「えへへv大和を捕まえて一緒に買ったんだぁvウンディーネに似合うと思って♪」
「ありがとう……でもこれ、高かったんじゃない?」
「大丈夫大丈夫!お金は大和持ちだったし♪」
「い、いやあのね、そういう問題じゃなくて……ふう」
言いかけて、彼女は溜め息をついた。
この女好き飛行物体のことだ。いくら説得しようったって無駄であろう。
しかもリォルに気に入られているウンディーネの誕生日なので、彼?にもそれなりに気合いが入る。
誰かれ構わずとっつかまえて、無理にでも買わせるだろう。今回の結果がそれだ。
「ねぇねぇ、さっそく着てみてよ!ウンディーネも昔はよく、そんなの着てたじゃん?」
「えっ……」
「ほら、ボクとウンディーネが初めて会った時!ウンディーネ、あの時も水色のスカート着てたじゃーん?」
「え、あ……う、うん」
「…?」
曖昧な彼女の返事に、少々黄泉が眉を寄せた。
「だ・か・ら! ボクと大和からワンピースをプレゼント!ねぇねぇねぇ、着てみてよってばぁー!」
「オレはプレゼントなんかしようと思った覚えなどないぞ」
大和がぽつりと言ったが、すっかり舞い上がっているリォルには届かない。
「う、うん…じゃあ着替えてみるね」
リォルの強引さに押されながらも、彼女はさかさかと自分の部屋へ向かっていった。
ところが肝心の服を忘れていってしまったらしく、ぽつんと服が置いてあった。
「あっ、ちょっとウンディーネ!?」
リォルが声をかけるが、彼女の耳には届いていなかったようだ。
とその時、さっそうと黄泉が先程の服を手に持って、
「私が届けてこよう」
「えっ? あっ、ちょっと…」
リォルが止めようとするにも関わらず、ふいっと行ってしまった。
「珍しいわねぇ、黄泉が自分から行こうとするなんて!」
「ま、あいつも一応は人間やからな! たまには変わろうとか思たんちゃうか?」
「あ、なるほど! いつまでも暗いのに飽きちゃったんですね!」
「いや、飽きたとかの問題じゃないと思うけど……」
◆
「ふう…」
パタン。
(リォルっていっつも強引だよね……)
少し変なところもあるものの、彼?も悪い奴ではないのだが…やはり強引である。
(まあしかたないけど…)
もうひとつおまけに溜め息をついて、ウンディーネは近くにあった椅子に腰掛けた。
そして腰に携えていた小さな鞘に手を伸ばし、短剣を抜いた。
両掌に乗せ、ソレをじっと見つめる。
柄には水と氷を司った紋章が彫られており、神秘的な雰囲気が漂っている。
(…お父様…)
「護身用にと持ち出したけど…よくよく考えてみれば、これ国宝だったのよね…。
…お父様……お兄様……ごめんなさい……」
カチャ
「!」
突然の来客に一瞬警戒心を放つが、それは無駄だったようだ。
扉の向こうにいたのは、自分の仲間の一人。
「あ、黄泉さん…」
「肝心の服を忘れていったぞ」
「あ、ありがとうございます」
立ち上がって先程のワンピースを受け取り、近辺のテーブルに置く。
と、黄泉は一瞬の隙をとり、彼女の短剣を奪い取った。
「あ…!」
「これは王家の紋章…なるほど、お前はウンディーネ王女だったんだな。
同名だったから、どうもおかしいとは思っていたが………」
彼女の言葉に何も言えず、ウンディーネは口を噤んだままだ。
「クラウドはこのことを知ってるのか?」
「…はい。私…突然誰かに連れ去られたんです。目が覚めたらここにいて…。それでクラウドと再会したんです」
「…」
「黄泉さん、お願いです!このこと、みんなには…!」
「わかった」
ウンディーネの言葉を遮って、彼女は頷いた。
「あいつらにばらしたところで、何の得もないだろう。その上、私がクラウドにボコボコにされてしまうからな」
「あ…ありがとうございます!」
「それに、もっとリォルがうるさくなるだろう……」
「えっ?」
「いや、なんでもない。じゃあな」
しぃ…ん
黄泉がその場から去り、ウンディーネの小さな溜め息だけが残る。
(まさか、ばれるなんて思わなかったな。誰にも他言しないって言ってたけど…大丈夫、よね。
そろそろリォルが様子を見てこようとする頃だろうし……早く着替えよう)
またもや溜め息をついて、彼女はリォルと大和(彼は否定しているが)にプレゼントされたワンピースに着替えはじめた。
◆
「んふふ〜、まだかなまだかな〜♪」
「そんなに待ちくたびれているのなら見に行ったらどうだ?」
「やーだよっ!確かに着替えは見たいけど、そんなことしたらボクがウンディーネに嫌われちゃうもん!」
「おいおい……」
すかさずアリヤがツッコミを入れる。と、ミカが不思議そうにリォルに問うた。
「そういえば…リォルって性別どっちで何歳なの?」
「うっ…」
「永遠の謎やなぁ…」
「ううっ!」
「無類の女好きなんだから、男じゃないのか?」
「ち、違うもんっ!!」
「そうかな? さっき、着替え見たいとか言ってたっしょ?」
「ぐっ!」
「やっぱり男ですね。フフッ」
「笑うなー!!」
頭?から湯気を出しながら、リォルは短い手足をばたばたと振り回す。
その無様な姿を見ながら、笑いあう一同であった。
とそこに、扉の陰に隠れた銀色頭。
「あ、あの…」
「ほんっとリォルってバカだよねぇ〜!」
「そうそう、バカでアホ!笑えすぎて、へそで茶を沸かせるで!!」
「ひっどぉーいっ!」
「あのさ……」
「性別はわかったようなもんだし? 次は歳だね!ねぇねぇいくつなのー?」
「誰が教えるもんか!これだけは死守だもん!!」
「実は結構歳食ってるんじゃないかぁ?」
「アハッ!86歳とか?」
「そんなおじいちゃんじゃないもん!」
「ねぇってば……もう、なんで誰も気づいてくれないの……?」
そろそろその人影がいじけかけてきた頃、大和が溜め息混じりに言った。
「お前ら、全然気づいていないみたいだが…さっきからあいつ、ドアの陰でいじけてるぞ」
「へ!?」
その部屋にいた全員が扉の陰にいた人影の方向を向いた。
「せっかく着替えてきたのに…黄泉さんにあのコトばれて……それでも着替えてきたのに……ひどいよみんな……」
そこには、しゃがんで床にののじを書き愚痴を言っていじけているウンディーネの姿があった。
「わー!ごめんねごめんねー!!」
案の定、一番最初に謝ったのはリォルである。
◆
「わ〜、とっても似合うよ♪」
「本当!可愛いわよ!」
「すっごく綺麗ですよ! 彼氏のクラウドさんがうらやましいくらいです!」
「…三人とも、私の機嫌取ろうとしてない?」
ぎくッ
「そ…そんなことないよ! ホントに似合うって!」
「そ、そうよそうよ! ほんっとうに可愛いわ!!」
「あぁ〜、クラウドさんがうらやましいなぁ!
そ、それに僕らがウンディーネさんの機嫌取りなんかしてるわけないじゃないですか!」
「だって三人とも……どもってる……」
ぎくぎくッ!
「ま、まあウンディーネもいいかげん機嫌なおせよ!な?気晴らしに街でも出て、散歩してきたらどうだ?」
「そうそう♪ あまりの可愛さにみんな振り返るよきっと!」
「…同意見だ」
とっさにアリヤとミカと黄泉がフォローしだした。
黄泉はあとあと面倒なので、そう言っただけかもしれないが。
(街に、か………ん?)
「ね、誰かクラウド見なかった?」
「いや、見てないけど…そういえば見当たらへんなぁ」
「私も。ケーキ作りの時はいたのに…」
「あたしも!まったく、自分の彼女の誕生日だってのにどこ行ったんだろうね!?」
「ほんっと!呆れたもんだわ!」
「…私、探してくる!」
「あ、ちょっとウンディーネ!?」
何を思いついたのか、ウンディーネは甲板へと駆けだした。
ミカが反射的に止めようと腕を掴もうとするが、するりと抜ける。
彼女の足音はだんだん小さくなり、やがて完全に聞こえなくなってしまった。
「まったく…クラウドのこととなると見境もなくなるんだよな、アイツ」
アリヤは「しかたねーなー」的な発言をし、ため息をひとつついたのだった。
◆
一方、こちらは甲板である。
船室を飛び出したはいいものの、クラウドがどこにいるのかまったくわからない。
あちこち探し回り、さらには通りすがりの船員に行方を聞いてみたが効果はなかった。
船の中にいないとなると船から下りて街の方に行ったのだろうか?
今回の場合、街へ行ったという仮説が一番有力的だが。
(でも、なんで行ったのかな……気分転換?)
本日五回目の溜め息をついて、ウンディーネは靴のつま先で床を蹴った。
(ここで考えてても仕方ない、か…街に行ってみるかな)
何のためかはわからないが気合いを入れて、彼女は勢い良く街に飛び出していった。………はいいものの。
ドンッ!
「うぉっ!?」
「きゃっ!」
気合いを入れて走りすぎたのか、ちょうど街中で人とぶつかってしまった。
相手の体のほうが大きかったために、ウンディーネは少しよろける。
「おいおい、大丈夫かぁ?」
「ってぇ〜」
「お嬢ちゃん、気を付けてくれないと困るねぇ〜」
どうやら彼女がぶつかったのは、三人組の中の一人だったらしい。
三人の特徴を一言で述べるなら…。
でぶ
ちび
のっぽ
ちなみに、ウンディーネがぶつかったのはデブである。
「ごめんなさい! あ…あの私、急いでるのでこれで!」
ガシッ!!
「!」
「おっと待ちなよ!」
のっぽが彼女の手首を掴んだ。
「落とし前、つけてもらわなくちゃ困るんだよねぇ」
さっきまで酒でも飲んでいたのか、酒気を漂わせているちびが言う。
この三人組、ただの通りすがりではないようだ。
「落とし前…!?」
「へっへっへ…ちょっと、こっちまで来てもらおうか?」
のっぽが顎で指した方向は人通りのなさそうな裏通り。
あそこへ行ったら、何をされるかわからない。
(どうしよう…どこか隙をついて逃げられればいいんだけど)
もしくは呪文を唱えて、三人を凍らせることができたなら。
(だめだ…文言を唱えてるのに気づかれたらもっと危険なことに…)
「おら、とっとと来るんだ!!」
「くっ!」
掴まれていた腕を思いきり引っ張られ、裏通りに連れられそうになる。
とうとう我慢ができなくなったのか、ウンディーネは行動に出た。
「離して!!」
バキッ!!
空いていた方の手でのっぽの頬を思い切り殴ってやった。
それでものっぽは手を離さず、赤くなった頬を抑えながら更に力を強める。
「このアマ…何しやがる!!」
「何よ!私の魔法を喰らいたいの!?」
「やれるもんならやってみな……オレたちにそんなこけ脅しは効かねえぞ?」
と、ちびがそう言った時デブが口を挟めた。
「おい、ちょっと待て。こいつ、よく見れば可愛い顔してるじゃねえか……」
デブが舌なめずりをして、醜い顔を近づけようとしたその時!
「コールド!!」
はじめ、デブは何が起きたかわからなかっただろう。
声が聞こえた瞬間、突然体の一部が恐ろしく冷たくなったのだから。
嫌な予感と共に、その体の一部に目を向けると……。
「ひ、ひえええええええ!!!」
なんと自分の手足が凍っていたのだ。
「な、なんで……?」
まだのっぽに腕を掴まれたままの彼女はわけがわからなかった。
コールドといえば冷気呪文のひとつ。
この街中にそんなのを使える者などそうそういないはずだが……
それに通りすがりの者が助けてくれたとは考えにくい。
さまざまな疑問が頭の中をよぎったがその疑問は次の言葉ですべて解かれることとなった。
「汚い手でオレの女に触るな」
彼女はこの言葉に反応し、すぐさま顔を上げた。
そこにいたのは、自分よりほんの少し年上の少年だった。
小麦色の髪に、黒いバンダナ。
腰には剣を携えていたが、本当に戦士なのか疑うくらいな軽装だった。
ジーパンに黒いTシャツ。彼の装備はそれだけだ。
印象的な瑠璃色の瞳はまっすぐに暴漢たちを見ている。
まさしくこの少年が、ウンディーネの探していたクラウドだった。
「な、なんだとぉ!?」
「貴様ぁ、今なんて言いやがった!?」
「聞こえなかったのか?お前らのような汚い暴漢が、オレの女に気安く触るなと言ったんだ」
「ふざけやがってぇ!!」
先程よりもくっきりはっきりとした口調。それが頭に来たのか、チビがナイフを抜いて彼に襲いかかってきた。
「うるさい奴だな…」
チビが襲いかかってきたのにも驚かず彼は腰の剣に手をかけようとした。
一瞬剣を抜こうかどうか迷ったようだったが素手で勝負することに決めたようだ。
「オラオラオラオラオラオラッ!!」
何度も何度もナイフを振り回すチビ。
「…………………………」
それを余裕で避けるクラウド。
クラウドはさすがに街中で戦ってはいけないと悟ったのか、誘うように裏通りへと入っていく。
それを追うようにウンディーネを捕まえたままののっぽと、なんとか氷を割ったデブも裏通りに入っていった。
「この野郎、ちょこまかと動きやがって!!」
チビがじれったそうに舌打ちした。
それとは対照的にクラウドは涼しい顔でチビのナイフを避けていく。
だが突然チビがニヤリとし、
「ふん、後ろはもうないぜ!」
「!」
これ以上後ろに下がろうにも、古くなった家の瓦礫が積みあがっていてクラウドを阻んでいた。
「へっ!!これでおしまいだあ!!」
チビはナイフを思い切り振り上げた。と、クラウドが小さく呟く。
「オレをただの剣士だと思うなよ」
「え?」
ヴォ…ン
「炎よ」
そうつぶやいた次の瞬間。クラウドの手には、長身の剣の形をしている炎が音を立てて燃えていた。
今まさに振り下ろされようとしていたチビのナイフを炎で斬るように軽く一振りすると、
それはあっという間に溶け使い物にならなくなってしまった。
「ひ、ひぃ……」
その溶けた剣を見て、チビは腰が抜けたのかその場にへたり込んでしまった。
「待て!!」
その二人に後ろから声がかかった。
振り返ったクラウドが見たのは、のっぽに銃を突き付けられ後ろから抱きすくめられているウンディーネの姿。
彼女は頭を垂れ、気を失っているかのように見えた。
「!」
「へっ、人質をとっちまえばこっちのもんだ!!」
勝利を確信したのかのようにデブが叫んだ。
だが一度目を見開いたものの、クラウドはにやりと微笑んだ。
「残念だったな。そいつを人質に取ったこと…後悔するぞ」
「え?」
炎を司る神よ、邪悪なる者を汝の聖なる炎で焼き尽くせ
「ファイア!!」
文言を唱えて腕を振り払い、のっぽの顔面にもろに炎を浴びせる。
その隙にウンディーネはのっぽの手から拳銃を奪い投げ捨てる。と、ちょうどクラウドの足下にそれは転がった。
「あ、あちいぃぃっ!!」
「さっきそいつが言っただろう。魔法を喰らいたいのか、とな。こけ脅しだとでも思ってたのか?」
「く、くそぉっ……このアマァッ!!」
デブがその体型を活かしてウンディーネに体当たりを仕掛けてきた。
だがためらうこともなく彼女はさらに呪文の文言を唱える。
時の女神よ かの者に安らぎの時を与えよ
「ストップ!」
急にデブの体が白くぼんやりと光りはじめた。
「なっ!?」
光りはじめたと同時に、デブは身動きが取れなくなった。
それを見逃さずにウンディーネはデブを下から突き上げて瓦礫の山に放り投げた。
「つ、強えぇ…」
「だから言っただろ。これ以上痛い目に遭いたくなければとっとと失せろ」
「んだと!?てめえ偉そうにしやがって!!」
チビが声の限り叫んだが、その声は震えていた。
クラウドはひとつ溜め息をつくと拳銃を拾い上げ、チビに銃口を向けた。
「もう一度言う。失せろ」
「ふ、ふざけやがって!オレたちが…」
けたたましい銃声と同時に、チビの頭の真ん中には見事に道が出来上がっていた。
「これが最後のチャンスだ。…失せろ」
「は……はひ!」
さすがに命まで取られてはかなわないと、チビはのっぽとデブをひきずって一目散にと逃げていった。
「ったく……おい、大丈夫か?」
三人組の姿が消えたことを確認すると、クラウドはウンディーネに安否を確認した。
「私は大丈夫。クラウドは?」
「どこも怪我はない。それにしてもなんで暴漢なんかに?」
「クラウドを街に探しに出ようとしたらあいつらとぶつかって…。
って、そうだ。なんで街に出てたの?気分転換?」
「あ、いや、その……」
ウンディーネの問いかけに思わずクラウドはどもってしまう。
彼が慌てるなんて滅多にないことである。
「もったいぶらないで教えて?」
目を輝かせて尋ねるウンディーネにクラウドは仕方なく答えることにすることにした。
(…まぁいいか。どうせ渡すんだからな)
クラウドのポケットから出てきたのは、一つの縦長の小さな箱だった。
「その…誕生日プレゼントだ」
少し頬を赤らめ、クラウドは呟いた。
「えっ!?」
「な、なんだよその反応は。嬉しくないのか?」
「そんなことない!すごく嬉しい!開けてみていい!?」
「あ、ああ」
まさか覚えてくれていたなんて―――今の彼女の心情はまさに心ときめく乙女であった。
「!」
出てきたのは一つの小さなペンダントだった。
黒い革紐にいくつもの涙型の水晶が取り付けられている。
「女物はよくわからないから迷ったけど…それでよかったか?」
「うん!ありがとうクラウド!」
プレゼントしてもらったペンダントを抱えるようにして、ウンディーネは満面の笑みを浮かべた。
先程戦っていた時とは別の人物のようである。その言葉に、クラウドは照れを誤魔化すように微笑んだ。
「それじゃぁ、とっとと船に戻るか」
さっそくペンダントを箱から取り出して身につけている彼女に、クラウドはそう告げる。
なんとか付け終わったウンディーネは元気よく返事をした。
「そうだね、きっとみんな心配してる。…ね、手つながない?」
優しく微笑み、手をさしのべたウンディーネの手をクラウドは照れ臭そうに握った。
「…港までだからな」
「うん!」
◆
闇の中、青白い光が三人の者だけを浮かび上がらせていた。
一人は端整な顔立ちの娘
一人は風変わりな服装をしている青年
一人は足が途中から消えてしまっている子供
娘が自分の目の前にいる子供に跪いた。もう一人の者も続いて跪く。
「ラ・ピ・ルカ様。メジストとロォン。ここにて戻りました」
「…ご苦労だった。それで?」
「はっ。どうやらあの連中が目覚めてしまったようです」
メジストと名乗った娘の隣りに跪いていたロォンが口を開いた。
しかし、その言葉にはまったくの感情がこもっていない。
「…あの忌々しい連中がか。手加減せず、さっさと始末しろ。
それからメジスト。あのガキはまだ殺していないだろうな?」
「もちろん。しかし、未だ記憶を取り戻せてはいないようですが…」
「上等だ。適当に記憶を植えつけて、連中を殺すように仕向けろ」
「わかりました」
「それから、ロォン」
「はっ」
「各地の神殿に封印されているアレのかけらを破壊しろ。今回の計画にとって、アレは邪魔になるからな」
「承知しました」
「ラ・ピ・ルカ様。他には何か?」
メジストが上目遣いでラ・ピ・ルカに聞くが首を横に振る。
「ない。下がれ」
「「はっ」」
シュンッ
メジストとロォンが姿を消した時、ラ・ピ・ルカはそっと呟いた。
「"純真なる水晶"…この世界を守る象徴、か…」
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あとがき
フロッピーから発掘したもの。かなり古いです。
なんか無駄にキャラが多いですね…。大和とか誰だろう。
メジストはやっぱり敵サイドのキャラクターのようですね。
純真なる水晶ってのは、FFでいうクリスタルのようなものでしょうか。
というかクラウド、今と全然キャラが違いますね。モモカも。
ハザードも「おめでとうだぜー!!」って……アイタタタ。
戻る。